傾きθ/2の直線y=xtan(θ/2)に関する対称移動を表す1次変換を求める。
  • 【方法1】回転を表す行列を用いて。

    P(x,y),Q(X,Y)に対して、 とする。
      ,  とすると、
    Aは原点まわりの(θ-2α)回転を表す行列であるから、

    すなわち、

    これは次のように、二つの行列の積として表される。

    さらに、右側の行列と列ベクトルの積を計算すると、

    すなわち、


    となって、求めるAは、

    であることがわかった。そうすると、上の式に現れた行列

    は、直線y=xtanαに関する対称移動を表すことになり、なるほどPはこの直線上の点であるから、この変換によっては移動しない(!)のであった。


  • ところで、原点を中心とする回転、という変換は、交換可能である。
    だから、原点まわりの(θ-2α)回転は、
    1. まず、-2α回転し、その後、θ回転しても、(下の図のA→A1→C)
    2. まず、θ回転し、その後、-2α回転しても、(下の図のA→A2→C)
    当然、同じ結果になる。


    これを、次のようにして、やはりθだけを含む行列と、αだけを含む行列との積に分解すると、

    となる。今度は交換可能ではなく、
    1. まず、y=xtanαに関する対称変換を行い、その後、y=xtan(θ/2)に関する対称変換を行う(下の図のA→B→C)のと、
    2. まず、y=-xtan(θ/2)に関する対称変換を行い、その後、y=-xtanαに関する対称変換を行う(下の図のA→B'→C)のと、
    が、同じであることを示している。



    それにしても、一般に、

    のような変形が出来るのは、なんとも不思議である。
    「主対角線」ではない対角成分の一方ずつの符号を変えた行列の積が、「主対角線」成分の一方の符号のみを変えた行列の積に変換できるのだから。

    に対して、「主対角線」ではない対角成分の一方ずつに印をつけると、

    なるほど、「主対角線」成分では印が二重になる。だから、

    と同じになる。同様に、


    すなわち、


  • 「直交行列」性について
    (tA)A=A(tA)=E    すなわち、   A-1=tA
    となる行列を「直交行列」という。
    |A|=|tA|    だから、   |(tA)A|=|A(tA)|=|A|2=|tA|2=|E|=1     すなわち、  |A|=1,-1
    • 原点まわりのθ回転をあらわす行列、
        は、|A|=1  の直交行列、
    • y=xtan(θ/2)に関する対称変換をあらわす行列、
        は、|A|=-1  の直交行列、
    である。したがって、それぞれの逆行列と、n乗については、
    • 原点まわりのθ回転をあらわす行列では、
            
    • y=xtan(θ/2)に関する対称変換をあらわす行列では、
        
      n  が奇数のとき、    An=A2m+1=(A2)mA={(tA)A}mA=EmA=A
      n  が偶数のとき、    An=A2m=(A2)m={(tA)A}m=Em=E
    となる。


  • 【方法2】線対称の幾何学的性質を用いて。

    P(x,y),Q(X,Y)に対して、
    1. 直線PQと、直線y=xtan(θ/2)が直交すること、
    2. PQの中点Mが、直線y=xtan(θ/2)にあること、
    から、
    • θが0でないとき、
      ・・・(i)
    • ・・・(ii)
    • ・・・(i)
    • ・・・(ii)
    すなわち、

    1+tan2(θ/2)は正であるから、


    すなわち、

    θ=0のとき、であり、これはx軸に対する対称変換だから、条件を満たしている。
  • 【参考までに・・・】さらに、「直交行列」の「固有値」について。

    の固有方程式は、t2-2tcosθ+1=0    その解は、

    と、複素数で、その絶対値は、1である。固有ベクトルを求めると、

    であるから、

    すなわち、

    ix1+y1=0  より、  (x1,y1)=(i,1)
    ix2-y2=0  より、  (x2,y2)=(1,i)
    すなわち、

    であるから、次のように「対角化」出来る。

          に対して、
    AP=PB
    A=PBP-1
    An=PBnP-1
    したがって、

    二項定理から、

    したがって、

    一方、    であるから、ここから、

    が得られる。

    次に、

    の固有方程式は、t2-1=0    その解は、1,-1
    同様に固有ベクトルを求めると、


      に対して、
    An=PBnP-1
    したがって、

    すなわち、nが奇数のとき  An=A  、  nが偶数のとき  An=E  である。



  • 【例題】次の行列は、ベクトル(a,b)がx軸となす角をθとすると、

    のように変形できるから、それぞれ、
    • 原点まわりθ回転と、√(a2+b2)倍拡大、
    • 直線y=xtan(θ/2)に関する対称移動と、√(a2+b2)倍拡大、
    の合成変換、と見ることができる。これを用いて、以下の行列が、どのような変換を表すかを述べよ。

    • 左は、原点まわりπ/3回転と、2倍拡大、の合成変換、
    • 右は、直線y=xtan(π/6)に関する対称移動と、2倍拡大、の合成変換。